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麗奈は、一億が入ったアタッシュケースをカウンターの下から出し、桐生に渡した。
桐生はそれを受け取り、ずっしりとした重みを手で感じた。
「ああ、そうだな。そろそろ行くよ。お前はどうするんだ?」
麗奈は拭き終えたグラスを、棚の中にしまいながら言った。
「少し開店の準備したら、お店閉めて外でお茶でも飲んでくるわ。」
桐生は笑うと もう一度店内を見回し、麗奈に聞いた。
「そう言えば、由美は?」
麗奈は濡れた掌をタオルで拭き、あぁ と小さく言うと 桐生の質問に再度答えた。
「一回家に帰ったわ。もう直ぐしたら買い出し済ませて、私と交代でお店に来るけど。」
それを聞いた桐生は、すこしガッカリしたように溜め息をもらし、肩を下ろした。
「そうか…じゃあまた今夜、軽く顔出すよ。」
その言葉に麗奈は頷き、「待ってるね」と言って微笑んだ。
桐生もそれに応えるように笑うと、麗奈に背を向けて出口へ向かった。
桐生はドアノブに手を掛けた。
…この時には、思いもしなかった。
この、麗奈との約束を 十年後に果たす事になるなんて。
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