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子機からシンジの慌てる声が響く。
「シンジです! 麗奈さんから、兄貴に伝えてくれって!」
シンジは電話越しで、息を荒くした。
そして、深く息をすると、声を張り上げて桐生に言った。
「今さっき…堂島組長が、由美さん さらってったんです!!」
桐生はそれを聞いた瞬間、思わずソファーから立ち上がった。
声を張り上げ、シンジに聞き返す。
「由美が!? 何で組長が…」
その桐生の問いに、シンジは答える。
「詳しいことは分かりません。錦の叔父貴 それ聞いて組長の所に…」
『助けなければ』
桐生は思った。
自分の…唯一の兄弟に危険が迫っていると思うと、本能的にそう思ったのだった。
慌ててシンジに場所を聞く。
「で…場所は!?」
「劇場の横のビルの、組長の事務所です!」
「わかった。すぐ行く!」
桐生は通話を切った。
風間がすかさず 桐生に問いかける。
「おい、どうした!」
桐生は構成員に子機を渡すと、風間の方を向き シンジから聞いた全てを話した。
「堂島会長が…由美を強引に連れ去ったらしいんです。
…それで、錦が一人で…由美を助けに!」
風間は目を見開くと、杖をつきながら 桐生に寄り、右手で顎を押さえた。
「…まずいな。 組長は気に入った女を どんな手使っても手に入れる人だ。
そこに錦山が入っていったら、何が起こってもおかしくはない…」
考え込む風間を尻目に、桐生は落ち着かない様子で言った。
「俺…行ってきます!」
桐生はドアに向かって走った。
ドアノブに手を掛け、捻ろうとした瞬間、風間が桐生に向かって怒鳴る。
「よせ!
ここでお前が行ったら 三人共タダじゃすまねぇぞ。
ここは耐えるんだ。 せめて俺が手を回すまで お前は待て!」
桐生はドアノブを回そうとする手をビクリと止め、風間の方を向き、ドアノブから手を離す。
…けれど ドアノブから離した手をぐっと握りしめ、風間を鋭い眼光で見ると、桐生は風間に向かって話した。
「……親っさん… 由美と錦は…兄弟なんです。
だから…今俺が行かねぇと!」
そう言い終えた桐生は 再度ドアノブに手を掛け、勢いよくドアを開ける。
「一馬!」
風間の呼び掛けも虚しく、桐生はビルを出、降りしきる雨の中を走った。
肉親ではない…兄弟を助ける為に。
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