第一話 Einsatz

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「安心しろ。私もただの変態だ」 その男は、なんの躊躇いもなくそう言った。 声があたり響いてこだまする。 深い木々に囲まれた山の中、二人の人影が対峙している。 「は・・・?」 普段から多少のことでは驚かないって自負している私だけど、さすがにこれには絶句してしまった。 自分から変態と名乗る奴なんて、普通に考えたらそうはいない。 もしいるとしたら、それは本当の隠しようがない変態か、真性のマゾかのどちらかだろう。どちらにしても変態には違いないが。 「へ、変態・・・!?」 あまりに突然すぎて、そんな言葉しか返せない。 私はあっけにとられてしまって、バカみたいにその変態の顔を見つめていた。 けど、それは仕方のないこと。 だっていきなり現れた人間に何者かと尋ねたら自己紹介がわりに「変態だ」なんて言われたんだから、呆れ果てるぐらい当然だと思う。 「そう、変態。お互い様だけど」 「ちっ、違う!私は変態じゃないもん!!」 素早く力強くキッパリ否定する。この男と同じ目で見られるのだけは、嫌だった。 けど男は拒絶の声ともとれる罵声にも微動だにせず、まるで無言で「いつものこと」とでも言っているかのように佇んでいる。 その立ち姿は雄々しく思える程であり、そして勇ましくすらあった。 しかし自称変態にそのような言葉をかけるのは限りなく気が引けた。 そしてそんなことより。こいつは先ほど何と言ったのか。 よりにもよって、私に、私が、いったい何だと言ったのか。
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