26人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
カチャリと音がして、そちらを見ると、私の分の紅茶を帽子屋さんが煎れてくれたみたいで。
「紅茶は煎れ立てが丁度良いですから、飲んで下さいネ~」
「…ありがとう。」
そう言われて差し出された紅茶の色は、すごく薄い、薄黄緑色をしていたわ。
コクリと一口飲むと広がる紅茶の味。
これは…ハーブティー?
「ホッとするわ。ハーブティーかしら?」
と言うと
「よく解りましたネ。それよりまだ、眠りネズミの質問に答えてませんヨ?」
と言われた。
「私、自分の名前が"アリス"だったか分からないの。何かを忘れている気がするのよ。私はその何かを思い出せないの。それに"アリス"って呼ばれることに慣れているなんて、変なの…。」
と言うと帽子屋さんが
「アリスが"忘れたい"と思って居たから連れてきたんですよネ~。忘れていても構わないんですヨ?」
本当に忘れていても良いのかしら?
大切な事は覚えているのに。
思い出せないのは悪いことではないのだけれど。
「帽子屋さん…」
「ワタシは"アリス"と君を呼ぶのに慣れてしまったんですから、アリスのままでいて下さいネ…」
と言われた。
私は恥ずかしくなって俯くと、紅茶をとって飲む。
それはぬるくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!