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「今日も疲れた…にしても、この街は平和だな。
世間じゃ事件ばっかなのにさ。」
俺は深夜のバイトを終え、店の前で愛咽している七星の箱から一本取出し口に加え、ライターで火をつけた。
ゆっくりと薄暗い空に紫煙が天へと昇る…今の俺を示すように。
「何をおっさん臭い事を言っているんだ?
いいかげん翔もバイトじゃなく正社員になったらどうだ?
もう一年になるんだし…そしたら彼女の一人もできるんじゃないのか?」
俺の隣を歩く奴はそう言ったが、俺は無視し空を見上げた。
真っ赤に染まった月…その赤さにあいつを思いだした。
「ふっ…悪いな店長、俺は何にも縛られず自由に生きたいんだ。
短く儚い人生なんだからさ…」
俺は濃い紫煙を吐きながらある場所に歩みを進めた。
「あっ、おい!
翔。
縛られてるのは今もだろ?
全く…」
店長の声をも無視して俺は目指した。
俺がやってきたのはもはや廃校になった木造の学校だった。
「ちっ…いつ来てもここはやな感じだな。
だぁ~!
蜘蛛の巣がぁ!
うざってぇなぁ!」
俺は校門に張られていたバリケード…と言っても破壊されていて意味のないただ邪魔なものを乗り越え中に入った。
「あんたまた来たの?
ほんっとに物好きね…」
誰もいないはずの学校から刺々しい女の声が響く。
相変わらず歓迎はしないようだった。
「うるせぇよ。
俺だって暇じゃねぇよ…」
言葉では素っ気なく言ってみたけど、俺はそれに会える事を楽しくて思わず笑っていた。
赤い月が出た日…というか俺しか見えないし意味を知らないだろうが、その日はこうしてソレに会える。
その日は不定期なので俺はそれに会えることを楽しみにしている。
「何度も言ってるけど…あんたもあたしみたいになっちゃうかも知れないわよ?
ほんとに馬鹿よね…」ソレはため息まじりに軽く怒っていた。
「たくっ…奈智はいつもそうだよな。
あっ!
いいもんあるぜ…肉まん食うか?」
俺は奈智がいる教室までやってきた。
そこには赤い月に照らしだされた重く冷たい鎖に捕われた茶色の長い髪が印象的な学生服姿の女性がいた…
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