主のいない箱

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やっときた。火曜日だ。 汀が帰ってくる前に買い物に行こう。 夕飯は汀の好きなポテトサラダにムニエル。 卵を買おう。帰りにいつもの本屋に寄って、あの人の本を買おう。 きっと今日は読めないけど、それは汀と一緒にいるからだから…幸せ。 財布と鍵だけを持って家を出る。 火曜日だってだけで、なぜか世界がきらきらとして見える。 これが幸せボケってやつかな? ガチャンと鍵の閉まる音を聞いてゆっくりと街へでる。 速度はまた一段と落ちたけど、頑張って買い物を終わらせた。 本屋に寄って、いつも通りの挨拶を交わしていつものコーナーに行く。 よかった、まだ女の子たちがいる時間じゃない。 「…今日は、店長さんいらっしゃらないんですか?」 本を手にとってレジに向かうと、そこにはあの店長さんの笑顔はなく、バイトの店員さんは「店長は休みですよ」と言って本にカバーをつけて会計してくれた。 …店長さんに会えないのは少し残念。 それでも今日は時間がないから、店員さんの「ありがとうございましたー」を背中に外に出る。 外はもう赤色。 すぐに夜が来る。 …早く帰ろう。 早く汀に会いたい。 主の帰ってきた、2人っきりの箱で幸せの時間を過ごそう。 行きよりも早く足を動かして。 逸る心を必死に抑えて。 早く! 早く汀に会いたい!! 赤色が終わる頃、家の前についた。 鍵を差し込んだ。 あ。 鍵が開いてる! 汀がもう帰ってきてる!! 「汀!!」
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