主のいない箱

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「柏くん、どうかな?」 リハビリ室で、車椅子にベルトで固定された俺を見ながら、先生がベルトを少しだけ緩めたり締めたりして調整してくれる。 お腹のあたりにくる一本に頷いて大丈夫と言った。 うん、苦しくもないし、ずれたりもしない。 俺の反応に先生もホッとしたらしく、頭を一つ撫でてわたわたとリハビリ室を後にした。 …忙しい人だなあ。 車椅子になれるためにも、と付き添おうとする療法士さんを留めて元の部屋に戻った。 俺の部屋はお爺さんと俺の二人部屋。 ふんわりと零れる陽差しと、水槽のコポコポという音。 それに、お爺さんと俺のめくる、本のページの音。 「…お疲れさん」 俺の姿を見たお爺さんは、テレビもつけずに小さな文庫を読んでいた。 テレビはいらない情報を送ってくるから嫌いなんだって。 本を読んでいたお爺さんに手伝って貰って、ベッドに登る。 …やれやれ、これからこの作業は大変だ。 十分近くかかったベルトの取り外しに、深くため息をついた。 そして、いつぞやの本屋で買った、大好きな作家さんの小説を手にとって読み始めた。 ペラ。 ページを進める。 この小説の主人公は1人の男の子で、彼はお父さんと二人暮らしなんだけど、ある日、その二人の家にある人がやってくる。 ペラ その人はお父さんの教え子で、お父さんの新しい恋人。 優しくて綺麗な人で、男の子もすぐその人を好きになった。 ペラ ある日、男の子は家を出て行く決意をする。 お父さんの恋人のその人と、自分が恋人になってしまったからだ。 ペラ だけど、その人は バサ、と。 窓から強い風がふいた。
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