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「ただいま。」
あれから足早に帰った僕は、彼女にその事は言わなかった。
変に不安にさせたくなかったのもあるけれど、何より僕自身、忘れたかったからだ。
「お帰り。」
台所の方から声がした。
彼女はいつもの様子で夕食の支度をしているようだ。
「ねえ?さっきさぁ…」
台所の向こうで、彼女は僕に言った。
「電話中、ずっとハイヒールの音がしてたけど…。誰か近所の人でも一緒だったの?」
「え…」
靴を脱ぎながら、僕は目を見開いた。
彼女の言葉にも驚いたけれど…。
それよりも。
僕の背後に赤いハイヒールのそれが立っていたからだ。
ゆっくりと…
ハイヒールのそれを見上げると。
そこには
無表情の
女がいた。
僕はその女を知っている。
なぜなら…その女は…。
ニタリ…。
不気味な笑みを浮かべたそれは…。
僕の顔を掴み。
そして…。
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