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綱吉は目的地へと歩を進めながら、先輩に見つかった場合の言い訳を考えていた。先輩の燕尾服姿がどうしても見たかったから、なんて本心を言えば一生クチを聞いてはくれそうにないが、まぁたとえ見つかったとしても黙って「来ちゃいました」風に笑顔を作っていれば問題はないようにも思う。
それに、なにも彼の(似合ってあるであろう)燕尾服姿だけを見に行くのではない。目的としては、もう一人のバイトの人の顔も拝んでおきたい。先輩と肩を並べてイケメンと称されるのだから、相当のルックスに違いない。
そしてもう一人、イタリア人であるらしいパティシエ。いつも先輩が持って帰ってくる試作品のケーキを綱吉は(雲雀の分まで)毎日のように食べてはいるが、まだその作った本人の店に行ったことがない(見たこともない)のは何ともむずかゆい。なによりそのケーキは、どの大手ケーキ屋よりも格別に美味しいのだ。それこそ、いつもタダであんなに美味しいケーキを頂いているのだから行ってお礼くらいはしておいてもいいはずである。
そうは思うものも、はじめから店へ入るつもりはさらさら無い。第一入ろうにも店内は女性客で溢れているだろうから容易に入るのは困難だろうし、なにより男一人で入るのには気が引ける。
ただ店の外から先輩の(にわかに信じがたいが)紳士らしい接客をこっそりと伺い、さらにもう一人のイケメンを盗み見、誰にも気付かれぬ様ひっそりと帰ってくる予定だった。
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