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私は街の頂(いただき)にいる。一思いに身を投げれば死ぬ。誰がここに私をつれてきたかなんて今更自問はしないが、混濁したこの世の中に、この答えを知るものなど決していないだろう
真上に黒く広がる過去をみれば、都会で辺りが明るいながらに輝く星も、焚き火の後に残る微かな消え残りのようで、私のトラウマを照らしだすただ眩しいだけのスポットライトだ。
下を見ると私が見えた。
一足先に血しぶきをあげた女が見えた。
彼女を押す私が見えた。
彼女と喧嘩する私が見えた。
二人で過ごす私が見みえた。
上司に怒られる私が見えた。
仕事に行く私が見えた。
サチエと出会う私が見えた。
学校に向かう私が見えた。
受験に落ちる私が見えた。
勉強をしている私が見えた。
水泳をしている私が見えた。
母親に褒められる私が見えた
一所懸命な私が見えた。
婆に抱きしめられる私が見えた
いつの間にか、私は上を向いていた。
「あの時は…」といいかけてやめた。
誰かと一緒にされたくないから。
私は今から、秩序あるこの上昇気流に逆らい、螺旋する。飛べる筈もなく、落下する。
風の音が消え一人に張り詰めた緊張はきれて、いよいよというときに、一筋の光が背中を刺した。
そこにはぼやけた友の姿があった。とても暖かい笑い声が微かに聞こえた。
わたしは「あばよ」といい、足を浮かせて、静止した空気に溶けていった。
風はまた、明日へ動き出した
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