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可愛いといってくれた小花柄のキャミソールワンピ一枚ではまだ寒い。ベランダで灰になる、いまいちよさのわからない煙草の味は彼が教えてくれたもので、彼はまだかえって来ない。ひとりで待つキッチンのあかりが、しんしんと冷めきった食卓を照らすので、それをいつまでも眺めているのも格好悪い、格好わるくて、わたしはひんやりした空気の中で夜になる空を無視した。こほん、と咳をしたあと、何本目かの煙草をまた灰に変える、あんまり彼が遅いなら、わたしは肺癌とかになるかもしれない。こほん、こほん。
煙りにむせたのはのどだったかしんぞうだったか。
三階からの見晴らしが教える夜の街は眠らない。向かいのマンションのあかりが、めっきり減っていて、その周辺のぎらぎらしたイルミネーションが目に悪い。足元で猫がにゃあお、と縋った。
わたしたちずいぶんながいあいだそとにいたのね
彼女の顎をなでて鼻先にくちづけたあと、からからと心地よい音のなるベランダの戸を開けて、しめた。厚いカーテンをぴしゃりと閉めると、湿っぽく暗いリビング、湿っぽく照らされるキッチン、食卓。
相変わらずそこにあるそれらを、サラダから順番に廃棄物に変えていく。彼の胃には落ちずに、ごみ箱でぐちゃぐちゃに、溶けた。
からっぽのおさらを洗いながら、わたしはまだ、ふたり分の献立をかんがえます。
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