それくらいの真実

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それくらいの真実

 名前を呼ぶなんてめずらしい。なにか嫌なことでもあったのですか。急に降る雨はざあざあと、容赦をわすれて、衣類をぬらしてそれきりで、水にしみる腕の赤にあなたは、いまきがついたようでした。裂けた肉に指をすべらすとお顔が少しゆがみました。ゆがむ、は、不正と書くのはご存知ですか。本当はわらいたいのでしょうはりつく湿気を払いのけたいのでしょう、ああ、雨がお嫌いなのですか、化粧がくずれてしまうから。 「止血しましょう」あてがう指に力をこめると、あなたが払いのけたのは湿気ではなくわたしの手でした。赤くぬれた指を袴のよこでぬぐい、かすかな鉄のにおいが雨に、なる。 「どう為れば、」 ぽつり、比喩ではなく本当にぽつり、と聞こえたことばを、私は無視して彼をからかい、水溜まりを越えました。ぎしり、と体液のしたたる腕を握り雨にさらされる彼はとてもとても体裁がわるくて、その不様さに同情もしないひとはやはりいけない人なのでしょうか、そんなもの欲していないくせにそれでも綺麗事はひつようですか欲しいのですか。あなた自身綺麗事の様な存在だけど、表も返せば裏になります。 格好悪いあなたは知りたくない、しんでください、正しい血を止めて消して、汚く美しいまま生きてください。 答えなんてとっくに出したくせに、他人が大声で罵ればあなたも確信できるのでしょうか。たしかにそのほうが認めやすいのかも知れません。わたしもやはり雨が嫌いで、憂鬱からあなたの本当の名前を呼びます。
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