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静寂(しじま)
手をからめた僕らの温度差はプラスマイナスゼロに限りなく近かった。温度差は。距離と温度差はまったく違うものだって習わなくたってしっている。
きみがいないとぼくは、だなんて安っぽいことばできみを喜ばせたくて傷つけたくなくって結果、きみの頬を伝うのは生理食塩水とごまかせばいいのか、もう面倒だから考えるのはやめよう。
「電気を消そう、か」
乱れた髪の毛に触れたまま、僕は立ち上がった。それからはいつもみたいにやさしくやさしく押し倒してみたけれど、とても彼女を抱く気になんてなれなかった。自分以外の人間を自分の物にするなんて不可能だって、なんでぼくはしらなかったんだ。これは習わなくたって本能で知っていなきゃいけないことなのかもしれない。ぼくのものじゃないくちびるに、ぼくのくちびるでふれて、僕の手で他人の頬に触れて、彼女の思想を見抜こうとしたあさはかな僕の夜はまだ冷えるらしい。
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