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ったばかりなのに。
さっきまでこの公園に――“他の人”なんか居ただろうか?
……いや、居たのに気が付かなかったとしても……こんなに印象的な少女を見逃してしまうほどに、僕は鈍感なのだろうか?
「…………。」
少しだけ、鳥肌が立ちそうになった。
……まさか、本当に?
しかし、考えているうちに彼女はお釣りを受け取ってこちらを振り向いた。
「……終わりましたよ?」
その柔らかい笑顔は、初対面である牧山の心にさえ安堵をくれた。
絹のような滑らかさで金の髪が揺れ、背中の方で未だ沈まない夕日にも似た、緋色の双眸が仄かに煌いたようにも映える。
「……。」
きっと僕は思っているよりも鈍いのだ、と自らを説得して、彼は自販機の前に立つ。
すると、すっと脇に退いた彼女の手にしていた缶のラベルが、偶然目に入った。
あれほど迷って少女が買ったものは……トマトジュース。
久々に雪も降るほどの真冬だというのにこの辺りには“冷たい”しかない、不思議なジュース。甘党の彼には鬼門とも言える、憎きトラウマジュース。
その色はまるで血のように真っ赤で、血と同じく鉄分たっぷり…………。
「!!」
牧山は硬直して、目線を上に上げていく。
そこには先と変わらぬ顔付きの少女が、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「…………?」
――何か私の顔についていますか?
そんなセリフが聞こえてきそうなキョトンとした表情を見る限り、彼の心配は杞憂どころか失礼に当たるのだろう。
「あ、ごめんなさい……」
申し訳ない気持ちでいっぱいになって、急いで自動販売機で目当ての飲み物を購入しようと考えた。
彼女は慌てる牧山には構うこと無しに、先程まで彼の座っていたベンチに腰掛けた。
そこにあった雪は牧山が座ったことでへこんではいたが、無くなっていないのに。
しかし、スーツのズボンのみの牧山と違って彼女は分厚いコートを着ているのだから、これこそ杞憂か。
そして、缶を開け、口を付けて傾け、一口目が嚥下に下ると。
「……ふぅ。本物は手に入れづらいですから、代用品でも飲んでないと落ち着きませんね」
そんなことを呟いた。
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