邂逅

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「……!?」 牧山は再び二千円札を入れる手を止めてしまう。 が、挿入口は既に札を受け取っており、自動で中へと入っていくと電子音と共にサンプルの飾ってある部分に灯りが点った。 思わず少女の座っているベンチのある右の方に、体ごと向く。 彼女は傘を畳んでおらず、両手には缶を持って、右脇に抱えるように差し続けていた。 夕日はまだ沈まない。 完全な日没まではもうすぐなのだが、ゆえに正面から日が差し込んで少女を照らそうとする。 「……おっと。」 そして彼女はそれに気が付くと、拒否するように傘を前方に傾けて防いだ。 「!!!」 日照を、拒否した…………。 “代用品”と称して真っ赤なトマトジュースを飲んで、貴族が持ってるような傘を持ち歩き、更には日の光を拒む。 これは。 もしや……。 「…………」 いやいや、待て待て。 何を考えているんだ僕は。 牧山は稚拙な空想で心臓が高鳴っている自分に、言い聞かせるように頭を振った。 他人のことを吸血鬼だの何だのと、僕は一体何歳児だ? ……日の光に弱い、ある種の虚弱体質の人だろう、常識的に考えて。 人体において日の光は、ビタミンDを生み出すのに役立つと聞いたことがある。 ということは、彼女にはそういう栄養素が頻繁に不足しがちであることで……。 つまり、トマトジュースは何らかの栄養補給で、“代用品”とかは……ほら、栄養剤だ。 僕自身は買ったことは無いけれど、きっと高いのだろう。 代わりに栄養たっぷりのジュースで代用してるんだって。 そう、それでもって彼女は実は貧乏なんだよ――そうだ、外にこんな服着ていくのは一種の“見栄”なんだ。 貧乏だって知られたくないから、わざわざ変な日傘を差して優雅さをアピールしているんだ、そうに違いない……!
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