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「……」
そう、子供でもいないかと見てみれば。
「――誰もいない。」
その場には牧山以外は本当に誰もいなかった。
ビルに囲まれたこんな場所でも、公園は公園だ。
人の足跡で所々がグショグショになっているとはいえ、雪だるまや雪合戦で遊ぶには絶好の場所なのに。
夕方だから既に帰った、というわけでもないようだ。
自分以外が残した雪の上の足跡は、大きさからして全て大人のものだし、走り回ったりしたような乱雑なものは一つも無い。
少なくとも、雪の積もった後にこの公園に子供が入ってはいないようだ。
小さな子供は雪を見れば喜んで飛び出すものと思っていたが…………。
「古い考えなのかもしれないな。」
牧山の生まれた頃から、子供たちは所謂“ゲーム世代”ではあった。
友達と一緒に鬼ごっこやかくれんぼに興じるよりも、家に篭ってテレビゲームの鍛錬に勤しむ少年がその頃からかなり増えた。
……別にそれを悪いことだとか、外で遊ぶほうが健全だと尤もらしく説教するつもりは彼には毛頭ない。
牧山自身、小学生の中程からその類の少年であったし、友人にはもっと深刻なレベルで自己の殻に閉じこもっていた者もかなり居た。
当時はそうしている自分にとやかく言う人間を敬遠し、勉強しろと煩い親にも何度か嫌悪を抱いたこともあった。
それでも。もっと幼い頃は雪を見てはしゃぎ、童歌で謡われている犬の如く実家の庭や外で駆け回った記憶が彼には微かに残っている。
そうした断片的な“良い思い出”が無自覚に顔をのぞかせたとき、得てして牧山は昔彼が嫌った大人達と同じ台詞を吐いてしまう――――即ち、「昔は良かった」と。
牧山が中学を卒業する頃には、もうゲームの時代は終わったと騒がれていたわりに。
未だに子供が外に出ないという現象はどういうことなのか。
少子化は進んだといえども、まだ遊び盛りな子等はいるだろうに。
「……どうでもいいか。」
子供どころか、女性との交流も乏しい僕には、まったく関係の無いことだ。
呟いて、彼は中程にあるベンチに座った。
正面の夕日が目に入り、少し眩い。
けれどそれよりも気になったのは臀部に走ったその冷たさ。
「…………!」
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