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そこには僅かとはいえ雪が積もっていて、座ればスーツが濡れるのは分かっていたが。
……ちょっとした反抗のつもりだったのだ。何に対するものかは分からないけれど。
どうせ、洗うのは自分だ。
着ていくのも自分だし、濡らしたからといって困るのも自分。
「……気楽、だな。」
勿論、そんなわけは無いのだけれど。
しかも、やせ我慢してみたものの――――意外と、痛い。
冷感が度を越えると痛覚に通じてくるということを、久方ぶりに思い知らされた。
子供のときに手袋無しで雪合戦に参加した時以来の感覚が、妙に懐かしい。
牧山は自虐気味に苦笑しながら、シャツの胸ポケットからタバコの箱を取り出した。
手先だけでも暖まろうと考えて。
が。
「…………あ、ライター。」
肝心の火を、家に忘れてきたのを今になって思い出す。
忘れっぽいのは昔のままだった。
仕方なくタバコを元の場所に戻し、不貞腐れたように両手を組んでその上に顔を乗せ、両膝に肘を付く。
牧山は別段ヘビースモーカーではない。
長い間吸わなければそれなりに禁断症状も出るが、一度でも吸わないと貧乏揺すりを始めるような真似はしない。
けれど、口が寂しくなると言おうか、何かを咥えてない
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