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先に並んでいた彼が悪い道理はないけれど、一応は謝辞を述べようと牧山は隣を向く。
「!」
すると、ちょうど牧山の真横にあった大きなそれが、彼の視界に飛び込んできた。
それは、傘。
……もう止んだといえども、さっきまで雪が降っていたのだから、それ自体は別段おかしくも珍しくも無いかもしれない。
ただ、そのフリルの付いたピンク色の大きな傘が異様なまでに特徴的だったので、牧山は一瞬身を引きそうになった。
「人の趣味はそれぞれだよな……」と無礼な発言を口から滑らさないで済んだのは、彼の僅かばかりの社会経験の賜物だったのか。
小さなリボンやフリルの付いた傘は、まるで昔貴族が使っていた日傘という感じだが、隣の人のは恐らくは雨傘としての用途を持つものだ。
派手な傘がすっと横に動き、次に目に入ってきたのは。
「え、と……」
掠れた様な小さな声と、不安げに曇る表情。
遅れてこちらを見た持ち主もまた、特徴的であった。
ふかふかしていそうなフリースのジャケットは傘と同じく淡いピンク色で、着ているのは女――――いや、まだ顔付きにあどけなさの残る少女だった。
背の高さは高くはないが低くもなく、流石に年齢を外見から特定するのは
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