第一章・義母

12/22
前へ
/63ページ
次へ
☆  薬湯の臭いが漂(ただよ)い、部屋に近づくほど濃く、鼻につく。  周瑾は無意識に唇を噛んだ。  ――ふと、母の泣き顔が脳裏に浮かんだから。  自分に泣きすがり願う母。  そして肩に食い込む爪と、媚びるような哀願。  それがいやで外に飛び出したというのに。  同じ臭いがここにも……。  ――それにしてもなんで、薬の臭いが?   ……ああ、そう言えば病気だったていってたな。 「子英?」 「あ、なんでもない」  考え込みいつのまにか距離が空いてしまって、周瑾はあわてて孫登の後をついていく。  柱廊を奥へと進むと主の閨の前についた。 「じゃあ、ここでまっていてくれ。挨拶をしてから呼ぶから」 「ん、わかった。僕にかまわないでゆっくりしてきなよ。久しぶりに会うんだろ?」 「ありがとう、」  孫登は階(きざはし)をのぼって扉をあけた。  室内はすべて暗幕で遮られ、扉を開けた分だけの光がさし込む。 「義母上、ただいま戻りました」  拝礼をして中に入っても返事がない。 「義母上?」  孫登は不安になって寝台をのぞいた。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加