第一章・義母

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  5  一部始終をみまもっていた周瑾は疲れた顔をして出てきた孫登をみつめ、呟くように声をかけた。 「……大変、だな」  こんなとき励ましてやりたいとはおもうけど、むしろ、否定せず受け入れてやるのが一番だ。孫登はその言葉に、申し訳なさそうに顔を伏せた。 「すまなかった、ずっと外で待たせてしまって。義母はこの間まではちゃんと私だとわかってくれた……でも」 「うん…」 「義母はもう長くはないんだ……父にそのことをいったのだけど「そうか」と一言。  その顔には安堵が浮かんでいたんだ。  義母は一途に父を愛して……けれどその分嫉妬深く、次第父に疎まれ離縁されたんだ。  義母は最後まで父のもとにいたいと訴えたけれど、許されなかった。  それからだ…義母の気が触れたのは……もう義母は私を見てはくれない……」 「だから、父上の代わりをしたんだ…」  上背のある孫登を見上げ、言葉の後を続けるように訊く。  そして孫登の頬に一筋涙がながれているのに胸を突かれた。 「泣くバカがどこにいる? 子高が父上の代わりをして母を喜ばせた…それって、孝行している事じゃないか」  流れる涙を周瑾はぬぐってやった。  ぬぐってもぬぐっても涙が溢れてくる――それでも周瑾は一生懸命ぬぐって、収まりがついたところで告白する。 「……実は僕の母上も子高の義母上と同じ、病なんだ」  孫登は驚いて目を瞬く。  周瑾は欄干に手をかけて、夕焼けを映す蓮池を見つめた。  おなじ病を患う母親をもつ息子か……。  ――僕らは似ている。
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