第一章・義母

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「もう、大丈夫だよね?」  孫登は急に情けなくなって前髪をかき上げ視線をそらす。頬骨あたりが少し赤い。 「すまない、年下の君に情けないところをみせるだなんて」 「え? かっこいい子高を見たのは出逢った最初の一度っきりだったけど?」 「ひどいなそれは…、」  お互いクスクスとわらいあう。  そして孫登はなんどか口を開いては小さく閉じ、ひらいては躊躇って人さし指を唇に当てる。  その動作に周瑾は首を傾げた。 「どうした? なんかいいたいことあるのか?」 「あ、いや、その――ああ……」  孫登は意を決して、周瑾を真剣にみつめた。 「……子英、義兄弟にならないか?」 「え?」 「私にはきっと君が必要なんだ、君となら心の底から分かち合える、そう思う」 「子高…、」 「いや…かい?」  不安げに訊ねられ周瑾はあわてて首を横に振って、明るく頷いた。 「いいよ! んじゃ、子高が弟で僕が兄だね!」 「ど、どうしてそうなるんだ?」 「精神年齢でいったら僕の方が上だから」  さらり、と当たり前のように言う周瑾にあっけをとられたが気を持ち直し孫登は反論の声をあげた。 「まってくれ、ここは年の功ということで私が兄だ」 「ん? なんかその言葉の使い方おかしい気がしないでもないけど、あは、まぁいいや! あははっ! うん、嬉しいな、子高と義兄弟になるなんて。――でもさ、『義兄さん』なんて呼ぶのはずかしいなぁ。  そうだ、紹兄(しょうけい)からきいたんだけど周瑜と伯父上は字で呼び合ってたそうじゃないか僕たちもそれにならって字で呼び合おう。それに決定!」  かってに決め、びしっと指をつきつける。  孫登は顎に拳をやりクスクス笑った。  ――周瑾の表情は本当によく変わる。  おどろいたと思ったら表情をなくし、落ち込んだと思ったら満面の笑みをうかべて……その笑みもいろいろ変化して飽きない。
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