第一章・義母

22/22
47人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「さ、……さっさと湯に浸かって母上に顔を見せろ。とても心配しているから……ん? どうした浮かない顔して…」 「それは私がいなくなって? それとも父上がいなくなって?」  周胤はその言葉にハッと目を瞠った。 「薔妹、」  周瑾はため息をついて兄に背をむける。 「わがままでした。母さまは父さまが死んだ時から、ううん。それ以前から私の存在を忘れてらっしゃる。……仕方がないことです」  着替えてきます、そういって周瑾――周薔は自室にもどり、扉を後ろ手で閉めたと同時にぽろぽろと冷たい涙が頬から零れた。  どうしようもない、孤独感――それが心を満たし涙になって表れる。  (私のことなんて、本当はどうでもよかったんだ――父上の姿が必要なんだ)  ――周瑾は偽名。  そして周瑜の庶子というのも、男子というのもすべて偽り。  本当の名は周薔。  ――周瑜の一人娘。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!