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「さ、……さっさと湯に浸かって母上に顔を見せろ。とても心配しているから……ん? どうした浮かない顔して…」
「それは私がいなくなって? それとも父上がいなくなって?」
周胤はその言葉にハッと目を瞠った。
「薔妹、」
周瑾はため息をついて兄に背をむける。
「わがままでした。母さまは父さまが死んだ時から、ううん。それ以前から私の存在を忘れてらっしゃる。……仕方がないことです」
着替えてきます、そういって周瑾――周薔は自室にもどり、扉を後ろ手で閉めたと同時にぽろぽろと冷たい涙が頬から零れた。
どうしようもない、孤独感――それが心を満たし涙になって表れる。
(私のことなんて、本当はどうでもよかったんだ――父上の姿が必要なんだ)
――周瑾は偽名。
そして周瑜の庶子というのも、男子というのもすべて偽り。
本当の名は周薔。
――周瑜の一人娘。
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