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欠けた月明かりに照らされる四阿(あずまや)の中で周薔は腕にすがり幸せそうに目を閉じる母を複雑な思いで見つめた。
母の名は蒂花(ていか)。
四十近いが、『江東の二喬』として姉と共に美貌で名を馳せていたときとかわらず、美しく年を感じさせない。むしろ、幼い。
父さまが死んで泣き暮らし、ついに気の病にふれてしまった、でも。
「あなたの父さまは殺されたの、孫権に……」
周薔の心を読んだのか、それとも思い出したのかぽつりと呟いた。
母の顔を注意深く伺いながら何度も聞かされる『真実』に周薔は相づちをうつ。
母は目を細め「そうよ」とうなずいた。
「殺されてしまったの、疎まれ殺されてしまったのよ……お願い…」
紅唇が紡く言葉は。
「孫権を殺して、仇を、とって、お願い、ね…?」
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