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☆
「まったく、気が滅入る……」
周薔は母を臥室に送って薬湯を飲ませて退室すると、気が抜けたように階にしゃがみこみ、両膝を抱えてうつむいた。
「正気なのかそうじゃないのか、わかんない……仇をとれったって、私は孫権に恨みはないんだけど、でも……」
――真実を知りたい。
母がいっていることが本当なのかどうか。
だからそれをたしかめるため建業寸前まで旅し途中で孫登と巡り逢った。
「……思いかけない出逢いだったなぁ、でも運がいいよね。今後『周瑾』として子高の元に訪れば孫権に目通りできないことはないし」
孫登の優しい微笑みを思い出して無性に会いたくなる。
「子高、今頃何しているんだろうか……元気になったかな……ふさぎ込んでなければいいんだけど」
「なにぶつくさいっているんだ?」
周胤は半ばあきれて、両手を腰に置き周薔の顔をのぞき込こむ。
「きゃっ、胤兄!」
「もう母上は落ち着いたか? ……って、コラ。そんなところにすわったら衣裳が汚れるだろうが、」
「別に気にしないよ。もう着ないし」
「なにぃ? せっかく刺繍ししゅうが上手い下女に作らせたというのに、もったいない」
「なら、丈夫な袴褶(こしゅう)が欲しい。それだったらずっと着てあげるよ」
普通の娘なら服の汚れを気にするものだけれど周薔の場合は違っていた。
まったくではないが、あまり服には頓着はしないし、女物より男物の方がすきだった。
周胤は苦笑して指先で周薔の額を弾く。
「いた!」
「わがままをいうな、お前は女なんだから」
「おしとやかな女に育てられなかったのは胤兄の責任もあるとおもうけど? 小さい頃からやれ剣を持て、馬に乗れってさ」
ムッとする周薔の顔を見てさらに笑みに深みが増す。
「俺の所為じゃないお前の気質きしつが男勝りなんだ」
「じゃあ、いまさらだよ。おしとやかにしろってほうが無理」
「ふん、まあいい……、ひとりで勝手に出て行ったバツとして一つ、舞ってくれないか? ちょうど女物をきているんだし」
「いいよ。それだけで許してくれるなら」
周薔は服のほこりを叩いて立ち上がった。
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