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「まて、薔妹!」
「きゃっ…!」
いきなり被巾を掴まれて、ついで派手にこけた。
「痛ったいなぁ、なによ、人が気持ちよく歌っているのに!」
打った膝や肘をさすりながら、血相を変えた兄を睨む。
「今の詩は本当なのか! お前主公を仇だとおもって、それで…!」
「半分本当」
「おまえの半分本当というのは、裏があるからハッキリ言え」
「……いつも母さま、父さまは孫権に殺されたっていうじゃない」
「違う、父上は病が元で亡くなったんだ。軍医どのも、父上の側近たちもそういっている。母上がそう思いこんでいるだけだ。……反逆罪で一族が滅ぶざまなんて想像したくない」
「でも…もし、そうじゃなかったら? 父さまは東呉の軍を一手に担っていた重鎮。
孫権は父さまが脅威でいつ寝返るかわからない、そんな猜疑心から父さまを暗殺しようと考えたかもしれないじゃない……ま、推測にしかすぎないけど…でもあり得ない事じゃないわ」
「薔妹、」
周薔は微笑んだ。その花が綻ぶような笑みの中に凄絶が潜んでいるような気がして周胤は内心ぞっとした。
「安心して。孫権を殺そうとか恨みを果たそうとおもっているわけじゃないわ。だって孫権の首級(くび)をとったら蜀漢や魏にはほめられるかもしれないけれど百倍の恨みを買いそうだもの……けれど、真相はたしかめたいの、まずは本人にあってその口から真実を聞き出さないと気が済まないの!」
――まったく、この妹は…。
その意志の強さに周胤は止める言葉がみつからない。
どんな手段を使ってとめても妹は目的遂行のためなら何だってするだろう。
その意志の強さと行動力も父に似ているのかもしれない。
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