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「ふん、しかし庶子というのはにわかには信じられない。公瑾は本当に愛妻家で他の女など目にもくれなかったぞ?」
「え?」
「それにな、公瑾の邸に遊びに行ったが最後、人目もはばからない夫婦の熱さは満腹になるほどべたべたで、もう勝手にしてろってぐらいにすごかった」
「そ、そうなのですか!」
「冗談だ」
「父上…」
孫権は半ばあきれて息子に注意する。
「お前もいちいち冗談を真にうけるな。その年になって素直すぎる。冗談を返すか、わらって無視するかしろ。しかし本当に鴛鴦夫婦だった。わしも一人の女を愛することができたらと思うほどに。まぁ、無理なはなしだったが」
くつくつと喉をならしてゆっくりと窓辺へより、青い昊(そら)を見入る。
その横顔は切なさがにじみでて、ふとすればその碧眼から涙が溢れるのではないかと孫登はおもった。
「瑜兄が……いなかったら、我が一族は争乱に巻き込まれてこの世に名を覇せなかっただろうな。いや、…瑜兄が策兄と運命的な出逢いを果たさなかったらこの国はなかった……。だから周家との縁は今後も保っていきたいとおもう。公瑾の功績に報いるために魯育(ろいく)を周循の嫁にと考えているのだかどうおもう?」
(魯育を)
魯育は孫権の愛娘で、そして孫登を敬愛する可愛い妹の一人だ。
孫登は穏やかに微笑んだ。
「それはよろしいかと。循どのは優しいからきっと魯育を大切にしてくれるとおもいます」
孫権は「そうか、」と嬉しそうに頷く。
「お前の笑みは不思議な安堵感があるな」
父にそう言われて孫登はこそばゆさを感じた。
「――……では、私はこれで」
辞して出て行こうとする息子に孫権はいった。
「もし、周瑜の庶子がお前のもとに現れたならすぐに報せろよ。会ってみたい」
「はい、是非に」
孫登は供手をして微笑んだ。
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