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夕陽が地平の果てに足を沈め、空は眩しいばかりのオレンジ色に染まっている。
窓から差す、茜色の光。それを浴びて、彼女はこの世界に産まれた。
「おめでとう、あぁ、おめでとうネイシェ! 元気な女の子よ!
頑張った、あなたはよく頑張ったわ! 本当におめでとう、ネイシェ!」
出産を手伝った叔母の言葉に、ネイシェは「ああ」と安堵した。
三時間もかかった分娩に、彼女は疲労し全身は玉の汗でびっしょりと濡れている。呼吸も荒く、だが何よりも、大きな達成感を彼女は感じていた。
叔母からタオルにくるまれた赤ん坊を受け取り、その華奢な感覚に彼女はほころぶ。
なんてかわいいのだろう。産まれたばかりのこの小さな命より大切な物など、この瞬間どこにも存在はしない。今まで生きてきたなかで、これほど幸せを感じた事はあっただろうか。こんなに命を愛でる事はあっただろうか。
次の瞬間ドアが吹き飛ぶように開き、現れた赤いシャツの男はむせこみながら叫んだ。
「う、産まれ……げほ、ごほ
、
産まれたか! やっと!」
「ええ、あなた。私たちの子供は、女の子よ」
「おお、おお……ネイシェ、ああネイシェ、よくやってくれた。ありがとう、ありがとう……!」
夫は感涙しながら妻と子を抱きしめた。何度もありがとう、ありがとうと呟き、絶対に離すまいと回した腕にぐっと力を込める。
「見ろネイシェ、よかった、顔はお前にそっくりだ。これは将来美人になるぞ、なぁそうだろうネイシェ」
「もう、あなたったら興奮しすぎよ。
でも、本当に産めてよかったわ。今この瞬間は、神様に感謝しなくちゃね」
産まれきた娘の名は、アルマナ。
夕陽はゆっくりと、地平の果てに沈んでいく……。
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