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「~♪ ~♪」
吹いたそよ風に歌声が乗る。稚拙なリズムながら聞く人を穏やかにする、そんな小歌。
その歌を歌うのは、空の下に広がる草原。若草色の波立つ絨毯の上を、跳ね回り踊る少女。彼女の名前は、アルマナ。
「~♪ ~~♪」
アルマナはこの場所がお気に入りだった。初めて外に出て、そして両親に連れられて来たここ。見渡す限り何もなく、ただ晴れやかな空と草原が地平線の向こうまで続いている。
奏でる歌は、誰かから聴いたものではない。この草原で空を見上げながら踊っていると、彼女の頭の中に何かが生まれてくる。この歌は無意識にそれを音にして表現しているだけで、だから毎日違う音。もちろん歌詞は無い。
「アルマナー、あんまりはしゃぎすぎると転んじゃうわよー」
「わかってる! だいじょうぶだよー!」
遠くに生える木の根本に腰を下ろし、自分を見守る母親…ネイシェに上げた両手を振る。と、その時彼女はバランスを崩して後ろに倒れてしまった。あらあらと駆け寄るネイシェ。
「大丈夫?」
しかしのぞきこんだ娘の表情に浮かんでいるのは、満面の笑顔。
「すごくたのしいよ、おかあさん」
そっか、と優しく微笑む。
「ちゃんと気をつけてね」
「わかってるっ」
跳ね起き、また踊りだすアルマナ。例えばこの草原が花畑だったら絵に出来るほど、それは幸せそうだった。
ああ、感謝します神様。ネイシェは心の中で呟く。
彼女が生まれる前、産声をあげる直前まで、彼女は不安だった。元気に産んであげられるだろうか。ちゃんと育つのか、育ててあげられるだろうか。彼女が落ち込み嘆いた時、拠り所になってあげられるだろうか。そんな不安を胸に抱き、時には夫の胸で泣いた事もある。
しかし彼女は生まれて、今までちゃんと過ごせている。育っている。これから成長し、大人になっていい人を見つけ、自分と同じ母になって。いつか、悲しみとは逆の思いで泣く日が来るだろう。まぁそれまで生きていられるかどうかは、また別だ。
強く育ってほしい。幸せになってほしい。アルマナが産まれた時、ネイシェは願った。今も願っている。
「アルマナー、そろそろお昼食べましょー」
「はーい!」
駆け戻ってくる娘。また転ぶ。やれやれと思いながら歩み寄り、その体を起こしてやる。
いつまでもこんな幸せは日々で在ってほしい。
そう彼女は思った。
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