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「噂には聞いていたけど……やっぱり凄いな」
適当な事を言いつつ、小さな木製の門をくぐると、想像通りの年期もさることながら立派な和風の屋敷がその姿を現した。
「はい。それでは中へどうぞ」
特に俺の事など関心なさげな様子でガラガラ~と戸を開いた。会釈をして中へ足を入れさせてもらう。
「どうも……」
ていうかこの女性は一体どこの誰なんだよ。という疑問は気まずいので聞かないでおく。変な争いは避けておきたいのだ(絶対に争いは起きないと思うが、念には念を、備えあれば憂いなし)。
「おぉ!やっと来たか!舎弟よ!」
居間に行くと、疲れているのか目の前から一番苦手とする女性の錯覚が見える……暑いから陽炎だろうか?それとも本当に居る……そんなまさかね。
「すいません。疲れてるんで寝室で休ませてもらいます。寝室って何処ですか?」
「…………」
「……あのぅ……割烹着先輩?初っ端から鹿が十匹で鹿十ですか?」
「…………」
俺の期待に応えることなく、割烹着先輩はまるで決められた動作で台所へと向かって行った。
それを目で追い続けた俺に……
「ハッハッハ。大丈夫大丈夫。お前の寝床はここだ」
と、正座になった俺の苦手人物は満面の笑みを浮かべ、ぽんぽんと膝を叩く。
何?ふぃざ枕?氏ねよ。
「……で、何で京都姉さんがここに居るんですか?」
今まで会わないように避けてきたのに。俺の運もここまでか……。でも受験勉強しに来たんだから……。
「私の夢を知っているか?」
「さぁ?」
「お前後で腕立て伏せ旋回を百回」
「何で!?」
「私の夢を知らなかった罰だ」
「……ハッ!今思い出しそうです!」
「言ってみろ」
「……京都姉さんが言ってくれたら完璧に思い出すかも……」
ハッ!?人殺しの生々しい赤いオーラが漂い始めてしまった。
「……神よ。憐れな舎弟に魂の祝福を」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―――
「助けてェェェェェェエエエエエエエッッッッ!!!!」
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