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荒野。
一言で片付けてしまうならばこの表現が最も適当である。
誰の手も加わえられた形跡のない荒れ果てた大地、乾燥地でも育だつ強靭な動植物。
見渡す限り視界で目立つものは、散在している地面から飛び出した岩山程度。
そこに人が整備した道など在るはずもなく、鉛色の空がもの淋しい雰囲気をさらに強める。
そんな淋しさをものともせず、この荒野を独り跳ね動く者がいた。
右手には物騒な長剣が一振り、左手にはなにかの書類であろうボロボロの紙が握られている。
剣などの物騒な代物を持つのは屈強な男を想像するが、体格は華奢でいて女のそれである。
顔は嬉しさゆえか少し綻び、美しく魅惑的な唇からは何度も何度も息が吐かれた。
背中の翼はなんのためにあるのか、元来翼とは自身を飛ばすためにある。
だが女はそれをせず、ただひたすらに大地を蹴り続けた。
「待って、なさい……必ず、見つけて、あげるから」
飛ぶことを忘れたのか、はたまたただ走りたい気分だったのか。
そんな息も途切れ途切れの声が、この荒野の風に拾われていった。
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