【第一詠唱:光の魔術師】

10/10
189人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
  「《光障壁》」  すぐさま法機を取り出し、操作。周囲の魔力の制圧を開始する。これは辺りに魔力を掴まえるネットを展開するようなイメージだろうか。  術になるのは主として集めた魔力だ。ツカサは魔に対する干渉力が非常に強いため、この時、他人の影響下にある魔力をも集めることができる。――普通ならば。 「……くそ」  今回ばかりは勝手が違う。相手の干渉力はツカサと同等、加えて、信じられないことに量は数倍なのだ。  そこで、ツカサは未だ相手の干渉下にない魔力で壁を作り、かたつむりのように身を守るつもりだった。これは決して悪手ではない。現状においては最善の一手だ。  何とかなるはずだった。普通ならば。だが、そもそも現状は普通ではなかったのだ。 「――なッ!?」  今度こそツカサは本当に驚愕した。術式発動のために広げたが魔力網が、室内で渦巻く正体不明の魔力に、自然にとけ込んでしまったのだ。  相手に制圧されたのではない。もちろんこちらが支配できたわけでもない。生じるはずの反発も違和感も何もなく、相手の魔力と混じり合い、渦の一部となった。  打てる手は、ない。魔術が使えない以上、ツカサはただの人間でしかないのだ。  はぁ、とため息を吐き、ツカサは抵抗を諦めた。攻撃であった時のために――そうとしか思えないが――軽く身構えるだけで、だんだんと凝縮されていく魔力を眺める。  ツカサの見ている前で、魔力は白い球となった。くるくると続けていた自転を止め――触手を伸ばす。ツカサはそれを躱した。  が、いかんせん足場がベッドでは動きづらい。軽く後悔するツカサをよそに、触手は十本、二十本と爆発的に増殖する。  向かいくる触手に体内魔力のみで作った矢を飛ばしてみるも、やはりというかとけ込んでしまう。ツカサの手足に百を越えた触手が巻きつき、魔法陣に引きずり込む。  セカイが白く塗り潰されていくなか、ツカサが考えていたのは、彼女との約束が守れなくなるかもしれない、ということだった。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!