【第二詠唱:魔法の使えぬ魔法使い】

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   平民に比べて、貴族には容姿、才気共に優れた者が多い。また、貴族はそうであることを求められている。  力在るが故に貴族。  その力で他の綺麗どころや有力者を手に入れてきた歴史があるからこそ、現在の繁栄があるのだ。  しかし神様というのは気まぐれで、例え英才らの間に生まれた子でも、何の才も受け継いでいないときもある。  所謂〝落ちこぼれ〟だ。  この作品の主人公であるカレン・セントリアは、ある意味では貴族らしいものの、またある意味では落ちこぼれなのであった。       …*…*…*…  セントリア公領内の、左右をのどかな牧場に挟まれた一本道。長く幅の広い土道を、五台の馬車――車を牽いているのは白牛型の魔物〝バクーダ〟のため、牛車と呼ぶべきかもしれない――が隊列を組んで走っていた。  前後を守るように走る四台は、各所を金属板で補強された武装馬車だ。中には銀の甲冑に身を包んだ騎士達が乗り込んでいる。槍こそ持っているものの、その顔からは警戒心が窺えない。この辺りは平和なのだ。それこそ彼ら護衛が必要ないほどに。  守られている馬車は、他の四台とは比べることがおこがましく感じるほどに豪奢なものだった。精緻な彫刻だけでなく、飾り布や貴金属によって華美な装飾を施され、天翼の刻まれた盾の紋章――セントリア公爵家の家紋が至る所に垣間見える。  そんな馬車の中には、公爵令嬢であるカレン・セントリアと家令、侍従が一人づつ控えていた。 「……はぁ」  窓に取り付けられた擦り硝子。その向こうに広がる緑の芝を眺めながら、カレンは一つ、ため息を吐いた。顔を少し伏せたことによって、長い睫毛が琥珀色の瞳に影を落とす。  
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