【第二詠唱:魔法の使えぬ魔法使い】

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        …*…*…*… 「カレン」  冷ややかで、しかしどこか甘い声が彼女の名前を呼んだ。一呼吸置き、カレンはゆっくりと振り返る。そして目の前に立つ見慣れた顔に、笑顔の花を咲かせた。背景(バック)は学長室へと続く石の階段。彼女は何事もなく学院に到着したことを報告していたのだ。 「シルク兄様! おかえりなさいませ。王都はいかがでしたか?」 「ただいま。戦時中だからだろうね、王都も荒れていたよ。道程で二度も盗賊に襲われた。護衛達には苦労をかける」 「無事でなによりです」  カレンの双子の兄、シルク・セントリアは唇の端を上げるだけの笑みを浮かべる。しかしながら、水晶の瞳と、氷の彫像の如き怜悧な顔立ちはほとんど動いていない。彼はあまり表情を変えない性(タチ)だ。  記憶と違わないシルクに、カレンは安堵のため息を吐く。彼の護衛がセントリア騎士団の精鋭中の精鋭だと知っていても、襲われたと聞いて平静でいられるカレンではない。  右手で自身の髪を掻きつつ、シルクはカレンの頭を優しく撫でる。カレンはシルクの、まるで水の精霊が宿っているような薄青色の頭髪が好きだった。  冴えた月光を跳ね返して淡く輝く絹糸が乱れる様子を、彼女は陶然と見上げる。美しい髪を持つ者は、総じて体内に強大な魔力を秘めているという。両親の才が然と引き継がれていることの証でもあるその髪は、カレンの憧れですらあった。 「カレンが今日来ると聞いて、イヴとタクトを部屋に招いているんだ。あまり待たせると悪いから、行こう」 「はい、兄様」  
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