【第二詠唱:魔法の使えぬ魔法使い】

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   カレンらの通うプリム魔法学院の校舎は元〝城〟だ。八十年程前に消滅した小国の跡地を学び舎として利用しているのである。石造りの廊下を寮に向かって歩きながら、カレンとシルクは談笑を続けていた。 「エレアノールとは会いましたか?」 「あぁ。彼女が着いたから俺が迎えにきたんだ。今はイヴらの侍従と共に料理を作っているだろう」 「楽しみですね。彼女が焼くパイはとても美味しいですから」 「そうだな」  エレアノールはカレンが連れてきた侍従だ。馬車の中でカレンに茶を煎れてくれた年若き女性のことである。  全寮制のこの学院では、ある程度以上の地位を持つ貴族の生徒なら一部屋に一人だけ侍従を置いておける。シルクはカレンと同室のため、彼の世話係もエレアノールであった。  目指している寮の姿が見えてきた。三角のとんがり屋根を被った、円柱形の大きな建造物だ。校舎と同じく石造りのそれは、元々は後宮であったとか。槍を携えた衛兵が木の椅子に座って欠伸をしている。 「……カレン。何か進歩はあったか?」  突如、シルクの口調が堅くなった。ぼかした言い方ではあるものの、彼女の兄が渋りたがる話題など数少ない。当然、カレンにもすぐに見当がつく。 「……いいえ」 「そうか……悪いことを聞いたな」 「そんなことありません。気になって当然ですから」  カレンは俯いた。口の中が乾いていくのを感じる。どうにか話を変えなければと思うが、頭は不甲斐ない自分を責めるばかりで働いてはくれない。シルクにも彼女に掛けられる言葉はなかった。  結局沈黙を維持したまま、二人はセントリアの家紋を刻んだ指輪を証明として門番に見せ、寮へと入っていった。  
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