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誰かを守るということが、どれほど難しくて重たいものなのか、最初から理解している人間なんていない。
それは、大切な人を失って、自分が無力であることを思い知って、そこで初めてわかるものなのだ。
少年にとっての不幸は、彼女が彼にとって初めて大切だと思えた人であったこと――守る大変さと失う辛さを、彼が知らなかったことだった。
…*…*…*…
神戸の市街地に、突如として半球状の結界が展開された。薄オレンジ色のそれに誰も近づかせないように、作業着に身を包んだ人たちが交通規制を始める。
いきなり塞がれた道に、男子高校生が舌打ちをした。近道をしようとしていた主婦が、ため息を一つ、荷物をぶら下げたまま大通りに引き返していった。
オレンジ色の半球に、誰も気付かない。
その中で行われている死闘に、誰も気付かない。
…*…*…*…
せめぎ合うは赤と黒。
対魔障壁の表面をなめるどす黒い炎。
十数人におよぶ結界術師たちの張った半透明のバリアが、あまりの火勢にかん高い悲鳴をあげる。
それは、一般人にすればSFXを用いているとしか思えない光景だった。画面越しに見たならば、誰もがこれを真実だと考えないだろう。
映画のような情景を前に、日本魔術結社神戸支部、実働部隊長の柊は声を張りあげる。
「防いだぞ! 撃て!!」
『応』の返答の代わりに放たれたのは紅色のレーザーだ。障壁を張りなおす一瞬の間隙をついたその砲火は、黒炎を吐いた怪物の長い首を直撃する。
だが――
「くそっ! 火力が足りない!」
「竜種――桁が違う!」
隊員のうちの誰かが悲鳴じみた言葉を吐き出した。柊はすぐさまそれを叱咤。しかし、自分の中にいるもう一人の自分が嘲笑う。お前も同じ気持ちだろう? と。
ぎぎっ、と歯ぎしりの音が漏れた。
柊たちの前で猛威をふるっているのは西洋竜(ドラゴン)であった。
ほとんどの攻性魔術を跳ね返す黒い鱗で全身をおおい、十メートルの高みから彼らを見下している。その金色の視線に射抜かれるだけで、柊は心臓が凍りつくような錯覚を抱いた。
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