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削いだように鋭利な顔立ちをした、長身痩躯の男だった。高い鼻が、彼を外国人のようにも見せる。神戸支部のトップで、名前を新見(ニイミ)という。
「よくやってくれた。今回のは異例の事態だったからね、報酬は弾もう」
その言葉によって勝利を手に入れたかのように、隊員らの歓喜が爆発した。大きな笑い声をあげる者に、肩を叩き合って息をつく者、涙を流す者までいる。上司を目の前にしていなければ、柊もその輪の中に加わっていただろう。
おのおのが高ぶる感情を発散させる中、無表情のままで棒立ちしている人物はひどく柊の目を引いた。冷笑を浮かべる新見支部長の脇からこちらを見ているのは、先の危機を打破した東堂ツカサだ。
容姿はわりと端麗だが、陰気な顔色がそのすべてを台なしにしている。驚くほどに深みのある黒髪と黒瞳が、周囲の光を吸い込んでいるかのようだ。
いたるところにベルトの巻き付いた暗色のツナギを身にまとうツカサは、モノを見る視線を柊たちに投げかけていた。
礼を述べよう、とツカサに向けた柊の足が止まる。不思議に思って自身の足を見、彼ははじめて自分の体が震えていることに気がついた。
「――え?」
カラダの奥底から沸きあがる感情に動揺する柊を、新見が小さく声を出して笑った。それを気にする余裕もなく、彼は知らず、恐怖に染まった瞳でツカサを見る。無機質で、底知れぬ視線に射抜かれる。
柊は慌てて目を逸らした。横目でツカサを確認したとき、陰気な魔術師はもう彼のことを見ていなかった。彼がこのとき抱いた感情の何たるかを知り、そして後悔するのは当分先の話になる。
…*…*…*…
「さすがは第一級魔術師。いい働きだったよ」
戦闘を終えて、ツカサがはじめて話しかけられたのは、支部へと帰る車に乗り込んだときだった。振り返り、新見のニヤニヤ笑いを視界におさめる。返事はしない。戦闘後で疲れているというのもあるが、ツカサは元来無口だ。
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