【第一詠唱:光の魔術師】

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        …*…*…*… 『脳波、生体反応、ともに異常なし。全て正常(オールグリーン)。次の検査に移ります』  真白く広い部屋の中。スピーカーを通じて出される指示に従い、ツカサは電極の多数くっついたヘッドギアとボディスーツを脱ぎ捨てた。すぐに暗色のツナギを身にまとう。  ツナギの腰部ポケットから携帯電話にも似た法機(ホウキ)――魔術発動デバイスの別称だ――を取り出し、起動させる。グリーンのライトが正常に動いていることを示していた。 『開始します。Lv.3の結界を展開。では、いつもの通り、術式の指定は《一矢》、目標は前方十メートル』  放送の声にはにぎやかな騒音がまじっていた。詠唱の補助装置や結界の発生機など、今回の戦闘に用いた装置類を運びこんでいるのだろう。  魔術と科学は決して相いれない存在ではない。むしろ、現代魔術は発達した科学技術によって支えられている。  ツカサの持つ法機も、当然その一つだ。 「《一矢》」  つぶやき、九つあるボタンのうちの一つを押しこむ。すると、周囲の魔力が収束、一秒と経たずに白い光の矢が形成され、的に向かって飛翔した。  このごく短い間に、法機はその内部の電脳領域で巨大な魔術式を組みあげるのと同時、スピーカーから圧縮した詠唱呪文を高速かつ連続で再生している。  戦場では部屋の外で運ばれているような大型機器が加えて補助をおこなう。肉声詠唱よりどうしても下がってしまう〝質〟を〝量〟で補うのが現代魔術なのだ。 『対魔干渉力、並びに術式発動における諸動作にも問題はなし。検査は以上です。部屋にお戻りください』  頷いて外に出ると、やはり大きな筐体を台車に乗せて運んでいる人が多くみられた。二~三人がかりで、あれこれ話しながら慌ただしげに動いている。  そのすき間をぬうようにして、ツカサはエレベーターを目指した。周囲から向けられる視線はすべて無視して。  
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