訪れる災厄

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「神谷・一郎・アレックス!」  怒号と共に、アレックスの頭上へ、参考書を硬く丸めた一撃が振り下ろされた。 「ぽこっ!」という間抜けな音をアレックスの頭で奏で、何事も無く六十才をまじかに控えた、世界史の男性教師の手の中に納まる。  教室のあちらこちらで、クスクスと小さな笑い声が上がる。 「まったく高校二年生にもなって……。もう2044年だというのに、パラパラ漫画なんて原始的な遊びをしおって!」    そう言うと、教師はアレックスの手から教科書を取り上げ、さもくだらなさそうにそれをめくった。  辺りからどっと笑い声が上がる。  アレックスは憮然な表情を作り、叩かれた頭をさするように、僅かに茶色がかった長髪をかき上げた。  黒い瞳で教師を見上げ、「納得いかない」という視線と共に言葉を投げかける。 「先生、そもそも何で今時、紙の教科書にシャープペンなんですか? せめて電子ペーパーの方が効率的です」  教師はうんざりとした表情を見せる。  その質問は、今まで幾度となく投げかけられた物だからだ。
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