気まぐれ逃避行

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高校へは中途半端に掛かる約四十分間、乗り換えなしで、ただただ水色の電車に揺られて通っている。 夏の蒸し暑さが抜けない二学期になっても、相も変わらずこの路線は混雑していて、嫌な気分に拍車を掛けてくれる。 高校に入学して初めて電車通学をした時、定期を使って電車に乗ることが、大人の仲間入りをしたみたいで何だか妙に誇らしかった。 電車に乗って通学することも、徒歩で行ける中学とは違うんだという私の気持ちを高ぶらせた。 でも、 そんなの、 もう…… ――――幻想。 草木が次々に芽吹く季節がその姿を華やかに変え始めた頃には 時々感知しない自動改札にも、 混雑通り越して隙間なく箱詰めされるみたいに乗る電車にも、 笑い話にすらならない位にうんざりするばかりで、徒歩で行けた中学が心底懐かしかった。 まだ色褪せる程じゃない記憶の中、くだらない話で騒げた中学の教室が、夏のプールの水面みたいに眩しく輝いて――私の気持ちをより一層重たくした。  
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