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その日は雨が仕切りなく降り、大粒の雨が地面を打ち付けていた。大雨ではないが、例年以上の降水量が、東京を襲う。ちょうど、梅雨の季節に突入してしまったからだ。
都心部の大通りを一本外れただけで、人通りは少なくなる。2台は通れる路地も、両脇に車が止められていては、ほぼ1台しか通れなくなる。
そんな細い路地を、通り過ぎる車のヘッドライトが、眩しく光った。
「きゃっ」
車とすれ違う度に、水溜まりが撥ねる。たまたま、それが女子大学生の足下に掛かってしまった。
「もう……最悪」
透明のビニール傘を差した女子大学生は、頬を膨ませて呟く。
腕時計に目を向けると、針は10時28分をさしている。正確には、22時28分になる。
女子大学生は濡れた足下を気に掛けていた。しかし、それを拭う暇はない。
「バイトで遅くなっちゃった……」
傘に当たる雨粒が、少し耳障りだった。
「待ってるかな……」
女子大学生は寂しい顔で呟いた。
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