暗闇

2/7
2876人が本棚に入れています
本棚に追加
/500ページ
………  … ……   …… ……    …    どこからか大勢の声が響く、暗く狭い控え室に一人の少年が居る。    身に着けた革の鎧は、鎧と言うよりは服に近く、頼りない。魔力による補強もなく、武器は傍らにある、柄も鞘もボロボロの刀、一振りだけ。満足な食事も与えられていないのだろう。小柄な体はガリガリに痩せこけ、骨が浮き出ている。腰よりも長く伸びた髪は、ある日を境に真っ白に変化した。  闘争本能と、欲望と、絶望の入り交じった場所に似つかわしくなく、少年の顔は美しい。  白く細い眉。スッと高い鼻。白い肌。形の良い薄い唇。それは本来は大理石の彫像を思わせる程に美しいのだが、今は引っかき傷が縦横無尽に走り、痛々しいとしか感じられず、金色の大きな目は虚ろで、現実のほとんどを映していない。   「出番だぞ」    鉄の扉を開けて入って来た男に言われ、少年は男の前に立つ。男は初めて対面する少年を舐める様に見て吐き捨てる。   「ショタ館長のお気に入りで、最強なんてバケモンだな」    言葉が終わると同時に、ペッ、と顔に唾を吐かれたが少年は何の反応も示さない。不快に顔を歪める事も無ければ、その唾を拭こうともしない。  薄気味悪いガキだな。と、一瞬感じた言い知れぬ恐怖をそんな言葉で誤魔化し、着いて来る少年を連れ、男は会場へと向かう。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!