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「………これでもない」
日の光が差し込まぬ部屋に、ため息混じりの声がこだまする。
いや、部屋と言うには広すぎるか。
ここは紅魔館内にある巨大な図書室のである。が、規模自体は図書館と何等違いない。
魔術・魔法に関するものから調理の上達方法が書き記されたものまで、それこそ多種多様な内容の本が存在する。さらに本棚には、それらの本が内容別に丁寧に置かれ、見上げるほど高い場所にまで伸びている。
薄暗く必要最低限の数の明かりしかないので、少々不気味な場所ではあるが、書物を愛する者にとってはこの上なく充実した空間だろう。興味のない者にとってはただのかび臭い空間だが。
そしてこの部屋の中央に位置する場所に、先程のため息をついた者がいた。
「ハァ………召喚術についての書物、あれしかないのに」
積み重ねられた本に囲まれ、机に突っ伏したまま動かなくなった。
パチュリー・ノーレッジ。彼女はこの図書館の主であり、レミリアとは古くからの仲である。ちなみに愛称は『パチェ』。
種族は魔法使い。ヒトが魔法を使うから魔法使いというわけではなく、人間や吸血鬼のように確立した種族である。
「パチュリー様、もしかしてお探しの本はこれではないでしょうか?」
本棚の間から、背中に悪魔のような小さな羽を生やした女性が現れる。
パチュリーの使い魔である。名前は………あるのかもしれないが、館の者たちから『小悪魔』と呼ばれている。
小悪魔の抱えてきた図鑑のような分厚い本をパチュリーは一瞥し、途端生気のなかった目に光りが灯る。
「これよ!でかしたわ小悪魔!」
「え、あ、ありがとうございます………」
いきなり褒められた小悪魔は、顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。
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