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そんなハートフル空間とは別のもう一つの部屋。
厨房でもないのになぜか煙が立ち込め、焦げた臭いが充満している。
その煙に紛れて、壁にもたれている楢葵の姿があった。
しかし、その顔に屋根で見せた笑みはなく、ただ険しい表情で何かを見つめているだけだ。
「―――もう終わり?」
突如として、楢葵の前に少女が舞い降りた。
背中に宝石がついた枝のような翼を持ち、小柄でありながらも全身から凄まじい威圧感を放つその少女は、手にした杖に似た形状の剣を楢葵に向ける。
「俺としては………粘った方、なんですけどねぇ………」
息も絶え絶えに楢葵は少女の問いに答える。脇腹から血を流して。
「でも、負けは負けだよ。それっ!」
そして少女は、躊躇うことなく剣を振り下ろした。
―――――――――
――――――
―――
「どうだった?」
先程の少女が、『今しがた殺された』はずの楢葵に聞く。
全身から致死量クラスの血を流して壁にもたれている楢葵は、誰が見ても死んでいると思うだろう。
しかしここで、奇妙なことが起きた。
海のように床で広がっていた血液が進行をやめ、あろうことか楢葵の体に戻り始めたのだ。
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