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口へ、傷口へと血液が本来あるべき場所に逆行する様は、誰が見ても異様だと感じる光景だった。
そうして瞬く間に傷が癒え、脇腹の深手だけを残した時、楢葵が閉じていた目を開いた。
斬られる間際のくすんだ色の瞳ではなく、生気の宿った瞳だ。
「どうだったと言われても………イテテ………いつもより攻撃的だったとしか………」
脇腹がまだ痛むのか、歯切れ悪く答える楢葵。
「でしょ?今日はソッ………なんだっけ、速攻勝負?を目指してみたの」
「ああ、通りであんなにバンバン飛ばしなさったわけだ………」
やれやれ、と聞こえないぐらい小さく呟く楢葵。彼等は『毎日』こうやって殺し合ってるわけだ。
いや、殺し合ってと言ってもそれは客観視した場合のみで、彼等自身は『遊び』としか思っていない。長き時間を生きる彼等にとって、ほんの戯れにすぎないのだ。
妖怪である楢葵と、吸血鬼である彼女―――フランドール・スカーレットにとっては。
スカーレットの名の通り、フランドールはレミリアの実の妹であり、姉と同じく驚異的な力を持っている。
そして楢葵は、フランドールの従者兼執事なのだ。その忠誠心には目を見張るものがある。
もっとも、楢葵がフランドールを主と定める理由は『単にフランがかわいらしいだけだから』という噂もあるのだが………。
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