串と白沢と土地神様

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腹もほどよく膨れたところで店から出ると、ぎらぎらと輝く太陽に照らされ、思わず目を閉じてしまう。春だというのに最近ずっとこれだから堪ったもんじゃない。 自分的には、お嬢様には少し後ろめたいが雨が結構好きな天気なんだがなぁ。 今日はこの土地神様と里のいろんな場所を巡ろうといった予定になっている。ちなみにデートではない。そんな甘酸っぱいモノじゃない。 何せまだ俺はこの娘の名前も知らないのだから。 実はと言うと、俺は数年前までの記憶が『ない』。所謂記憶喪失と言うやつだ。 そして彼女は、記憶がない頃からの俺の唯一の友人。なのでこうやってちょくちょく里を訪れては彼女に少しずつ記憶のことを教えてもらっている、というわけだ。 一度彼女に名前を教えてくれと頼んだのだが、どうやら彼女の名前は俺の記憶と深く関連しているらしく、もしかしたら一気に大量の記憶が蘇り、俺の頭の処理が追い付かずに潰れる恐れがあるとかなんとかで、まだ教えることはできないらしい。 なので俺は彼女のことは『とっちー』と呼んでいる。土地神だからとっちー。なんか文句あるか?ん? 「さあて、次はどこに行く?」 身長差が大分あるので、俺は少し顔を下げて言う。 「寺子屋。会いたい人がいるから」 ほう。寺子屋か。 「なら何かお土産でも買っていくか」 「……うん」 小さく頷いてからぎりぎり聞こえる声でとっちーは呟いた。近頃、この娘の感情表現が……何と言うか、はっきりしだした気がする。
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