饒舌の男

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『この製品は、限りなく水に近い成分で出来ています。』 このキャッチコピーに僕は足を止めた。 なんとも意味深長な、どういうことだろう、と興味を最大限にそそるものであった。 それは、10畳ほどの小さな店舗の店先にあった。 その店は、なにか妙な雰囲気が醸し出されていて、不思議雑貨の荒唐無稽な品揃えといい、寡黙そうな店主といい、店内に足を踏み入れることに多大な勇気が必要だった。 僕は店内には入らず、その店先に落ち着きなく置かれた、ある商品を手に取ってじっくりと見澄ました。 (どこが水に近いのだ、硬質プラスチックか何かで出来た、ただの球じゃないか…) それは正確な球形にかたどられた、漆黒の球であった。 大きすぎず小さすぎず、手で握ってしっくりとくるそれは、想像以上に軽いものだった。 驚いたことに、二つしかないこの商品には、それぞれ違う値段が示されていた。 5億円と20円――  
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