饒舌の男

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同じ物なのにこの差額は驚愕に値する。 確実に5億の価値はない、という事だけは解る。 『どうです、お気に召しましたか?』 突然声をかけられ、すでに目の前にいた男。 それは今まで店の奥で寝ていた、店の主人であった。 40歳ぐらいだろうか… 寡黙的色彩の強い男である。 その病的にやつれた面持ちに僕は一瞬後ずさりしたが、店主はその分、ずんと近づいて来た。 『この二つの商品は全く同じ物です。しかし、その製造過程が全く違います。したがって、値段が異なるのです』 『―と言いますと』 主人は満足げに僕から視点を落とした。 『あなたが触っていた方、それは日米の技術者5名が、小惑星に起動修正を施すぐらいの高度な技術を駆使して製造されました。それで5億の値段が付いたのです。 そしてもう片方はなんと、5歳の普通のお子さんが作り上げたものです』 僕はこの男正気か?と思いながらも、それとは裏腹に質問が止まらない。 『―それで限りなく水に近いって…どこがどう…』 『それがですね、限りなく水に近い成分で作られていることは確かなのですが、それが私たちにはよく理解できないんです。 そんな次元の話ではない…というか』 『どういうことです?』 『いや、だから理解できないのです』 この理不尽な話に、主人は萎縮する事なく堂々と言い放った。 『じゃあこの商品はどういった機能を果たすのですか?』  
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