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やっとの思いで妻に相談したところ、明日病院に行けということであった。
当然の結果か、
もちろん反論の余地はない。
翌日、僕は病院に赴き、症状を詳しく医師に伝えた。
その初老の医師は、落ち着いて落ち着いてと何度も言いながら、真剣に僕の話に耳を傾けた。
『あれですか、ふとした瞬間そのものの色が違って見える、と』
『そうなんです』
医師はおもむろに立ち上がり、棚から分厚い本を取り出して来た。
その本には、1ページ1ページに色彩が塗装されていて、ぺらぺらめくると、とても綺麗だ。
『これは?』
唐突に医師があるページを指差して僕に尋ねた。
僕は緊張気味に、
『むむらさき』
と、どもりながらも端的に答えた。
何回かそれを繰り返した後『異常なし』という結論が医師の口から告げられた。
しかし、それはかえって僕の不安に拍車をかける結果となってしまった。
伝えた症状は嘘ではない。
とにかく早く治療してほしいのだ。
『どちらにしても色盲の症状ではありません。精神的なところから来ているのでしょう。ゆっくりと休んでください』
と付け加えてから後ろの花瓶を触りはじめた。
(原因不明=ストレスかよ!)
医者の常套手段に若干のイラつきを覚えながら病院を後にした。
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