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褐色の街。
塵埃の臭いが鼻をつく。
表通りの華やかさとは全く違った雰囲気がここにはある。
薄汚れたTシャツにジーンズを穿いた幾人もの若者が、敗北者のように地にへたり込み、通行人をハイエナのような眼光で追っている。
いつ暴力事件が起きてもおかしくない、一触即発の空気。
彼等によって作り出された頽廃的な風情は、すでに人情で元に戻るような「ナマヌルイ」ものではない。
どこを見回しても、ペンキやスプレーで打ち付けられた派手な落書きが、壁という壁を支配し、そこにたたずむ男達が一層すさんで見える。
ある朝、この路地裏の電信柱に一枚の貼り紙が出された。
といっても、いつ誰が、ということも分からない。
もしかすると、相当前から貼り出されていたのかもしれない、と錯覚を覚えるほど、それは路地裏の風景に馴染んでいた。
ここにいる男達は、その目の高さほどに取り付けられた張り紙をしげしげと見つめては
「けっ、バカにしてんのか」
とつぶやいて通り過ぎる。
もちろん気付かずに通り過ぎる者もいる。
これほど派手な壁が背景にあれば、それも致し方ない。
ノートを破って作ったような、そのお粗末な紙面にはこう書かれてあった。
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