~序章~

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 鈴虫の心地良い鳴き声が凛々と聞こえる山の中間地点で、宮原大地は目を覚ました。 「あぁ……。それにしてもひどい夢を見た。僕にはあの人達が悪魔に見えてしょうがないよ」  なぜ森の中で大地は眠っていたか、それはおよそ四日前に起きた『日本列島大震災』によって住む家を失ったからである。山に登っていた最中にそれは起きた。本来ならば帰るべき場所があった。だが、大地震により日本の建物は殆ど崩壊した。大地は山から見える殺風景な街を見て自宅も潰れたと判断した。とても複雑だった。  日本列島大震災は、文字通り日本列島全体に震度八を超える大地震が発生したのである。その被害は各地に広まり、台湾では高さ十二メートルを超える大波が多発し、中国・韓国では津波や地震によりおよそ死者八百人にものぼる被害があったのである。  そして、震源地である日本。日本の死者数は約八千万人だと推測され、さらには行方者数を含めると一億人にものぼると考えられた。  つまり、日本人の人口の約三分の二が犠牲となった。と、同時にその数値は日本という一つの国の“壊滅”を意味することとなる。 「それにしても、母さんは無事だろうか? この地震じゃあ生存率だって低いはず……」  兄弟もおらず、女手一つで育てられてきた大地は母親の安否がひどく気になっていた。自分の命よりもまずは母親の命を優先する大地にとって今回の大地震は、天と地が逆転するような出来事だった。  さらに追い討ちをかけるかのように、日本の通信手段は途絶え、電話はもちろんのこと誰かと連絡をとることさえも不可能な状態だった。
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